ア・デイ・イン・ザ・ライフ(11)
僕たち日本人スタッフがホテルで遅い朝食を取っていると、マネージャーのノノムラさんがやってきて、ソーカーさんがけさ亡くなったと伝えました。
インド人側のマネージャーであるデイさんが、ソーカーさんが部屋の窓際に置かれたいすに座ったまま亡くなっているのを発見したのだそうです。
ノノムラさんは、イワモトさんにそのことを手短に話すと、東京の事務所に連絡を取ったり、H興行の本社の人たちと今後の公演についての相談をするために、あわただしく出掛けていきました。
死因については、ノノムラさんもまだ詳しくは聞いていなかったようですが、おそらく心筋梗塞ではないだろうかという話でした。
士別の公演が終わったあと、「ハートが痛い」と言っていたのは、心が痛いというのではなくて、心臓に異変があるとソーカーさんは訴えていたのかと、そのときになって僕は理解したのでした。
「あとの公演はどうなるんだろう」タニムラさんはイワモトさんに尋ねるともなく言いましたが、それはもちろん今の段階ではイワモトさんにも分からないし、誰もが知りたいことでもありました。
「中止になるかもしれんなあ」
「団長抜きではマジック出来ないですもんね」
「ナンバー2のデイさんはマジック出来ないしなあ」
「代わりがいないんじゃ、公演は打切りかな」
「だから、俺が言ったとおりだろ? 真冬の北海道で、しかも道北からの巡業なんて死んじゃうよ」イワモトさんがため息まじりに言いました。
「俺より先にソーカーさんが死んじゃったよ。やっぱりインド人にいきなり冬の北海道はハードすぎるよなあ」
イワモトさんは東京のK舞台照明に電話を入れて、状況を報告することになり、僕たちは取りあえず、H興行と魔術団側の話し合いで方針が出るまでの間、ホテルで待機することになりました。
フジモリくんとタニムラさんは、時間つぶしにパチンコ屋へ行きました。
「公演中止なら、失業かな」オオイシさんは半分冗談、半分心配という感じで、自宅で会社からの連絡を待つといって帰っていきました。
僕は、あまりパチンコしようという気分じゃなかったので、昼にはちょっと早いかなと思ったけど、ベリョーザで昼ごはんを食べようと思ってホテルを出ました。
外はさすがに寒く、ホテルを出た瞬間こめかみあたりが痛くなるような寒さでした。