煙が目にしみる

猫と老人の日記

2021-03-01から1ヶ月間の記事一覧

And I Love Her(22)

葬儀屋のハイエースが「フォーンフォーン」とお別れのクラクションを鳴らして動きだした。 葉沼くんがアンプのボリュームを上げると、BOSEのスピーカーから大音量でビートルズの「ドライブ・マイ・カー」が流れ出した。僕は驚いて葉沼くんの顔を見た。 彼は…

And I Love Her(21)

司会進行は葉沼くんがやったのだが、一応葬儀屋さんも来ていたらしく、祭壇の前に置かれていた礼子さんの棺を黒服の男たちが抱えて、部屋の中央に置いた。 「お別れの時間となりました。名残惜しいですが、皆さんどうぞ故人の周りにお集まりください」葉沼く…

And I Love Her(20)

ぼおっとしている間に、お経も終盤にさしかかっているようである。 僕は子供のころから、校長先生の長い話や、学校行事に来なくてもいいのにやってきた来賓が、子供たちを体育館や講堂に集めて聞きたくもない話を長々とするときは、たいてい意識が遠のいて、…

And I Love Her(19)

島崎家の床に敷かれたエスニック柄のカーペットを見ているうちに、僕はいつしか妄想の世界へと入り込み、大昔の記憶の糸をたぐり寄せていたのだが、「住職が来られました」という葉沼くんの声で現実に引き戻された。 葉沼くんの案内で3人のお坊さんが入って…

And I Love Her(18)

食事を終えて、チャイを飲みながら僕たちが談笑していると、ガヤガヤと大勢の若者たちが入って来た。見ると、この辺りで見掛けるような連中ではなく、レイバンのサングラスに真新しいスウェット、細身のジーンズにアディダスの靴を履いている。 さらに驚いた…

And I Love Her(17)

いすやテーブルを取っ払って大広間のようになったレストラン「オリーブ」の床には、カラフルなエスニック柄の敷物が敷き詰められていて、喪服を着た人々が座っている。 ぼんやり眺めていた僕の脳裏にはある光景が浮かび上がってきた。 ずいぶん昔のことだが…

And I Love Her(16)

島崎さんの家に入るのは初めてである。 家の中は天井も高く広々としている。入ってすぐのところがレストランとして使われるために普段は4人掛けのテーブルが5つほど置いてあるらしいのだが、きょうはすべて片付けてあり、板張りの床にはエスニック風の柄の…