煙が目にしみる

猫と老人の日記

ア・デイ・イン・ザ・ライフ(7)

 ステージにP.C.SORCARインド大魔術団の大道具、小道具、カーテンなどが運び込まれました。

 魔術団の人たちはバスで会場に到着すると、例の宝箱からマジックに使う小道具類や、ステージ衣装、それに大掛かりなマジックに用いる大道具などを取り出して、次々にステージ上に運びあげていました。

 小型のトラックかマイクロバスぐらいありそうな大道具がありましたが、これは分解して運搬されたものを、おじいちゃんのインド人が組み立てていました。

 このおじいちゃんは仲間うちでカーペンターと呼ばれていました。名前は聞いたかもしれませんが、覚えていません。われわれ日本人スタッフも彼のことをカーペンターと呼びました。

 いつもニコニコ笑って仕事をしています。そして、僕を見ると肩をすくめながら「ブロークン!」と叫ぶのです。大道具も小道具も、ショーが終わるごとにどこか壊れていて、修理が必要なのです。カーペンターのおじいちゃんはいつも忙しそうでした。

 団長のソーカーさんは、おなかが出たかっぷくの良い人です。ちょびひげをはやした感じがテレビドラマの「おやじ太鼓」に出ていた進藤英太郎という俳優に良く似ていました。

 

 舞台監督のイワモトさんも到着しました。それに、インド魔術団の日本公演でのマネージメントをする事務所からノノムラさんという人も来ていました。

 H興行の社員や魔術団の団員たちが荷ほどきをしている間、僕とタニムラさん、イワモトさん、それにイワモトさんと一緒に到着した照明担当のフジモリくんが舞台袖に呼ばれて、魔術団の舞台監督であるデイさんに紹介されました。

 

 デイさんは40歳ぐらいの大柄な人で、一目見るなり僕は高校時代の担任を思い出しました。高校時代の担任は化学の教師で、ドイツのバリトン歌手のディートリヒ・フィッシャー=ディースカウに良く似た人でした。

 だから、僕の印象としてはフィッシャー=ディスカウを色黒にするとデイさんになるわけです。

 デイさんは、翌日から始まるショーの進行について説明してくれました。

 「魔法の水」だとか「空中に消える美女」だとか演目を説明されても、何となく想像は出来るけど、実際に見たことがないので、どういう段取りになるのか良く分からないのですが、一応進行表に基づいて失敗がないようにしなければなりません。

 

 フジモリくんはほかの照明会社から助っ人としてきてくれていて、僕と同い年でした。イワモトさんの指示で日本人スタッフの配置が決まりました。

 照明チーフのタニムラさんはセンターボックスに入って調光器を操作する。フジモリくんが照明のサブとして、ピンスポットを操作する。イワモトさんはステージにいて、日本人スタッフの監督。僕の仕事は、大道具の出し入れとドロップカーテンの操作ということになりました。